回想:あたしとキャベツ、どっちが大事なの?
衝撃の質問
あの日君は言ったね。
「あたしとキャベツ、どっちが大事なの?」
この質問ははっきり言って、僕がこれまでの人生で受けたものの中で、最も意味不明なものだったよ。食材であるキャベツと、同棲している彼女であるあなたと、僕にとってどっちが大事かだって?
キャベツの宇宙性
でもね、ひとまず君はキャベツのことを何もわかっちゃいない。その重厚さ、深遠さ、そしてその宇宙性について。
一回でもホールのキャベツを持ったことがあるだろうか。あれはね、重いんだ。とてもじゃないが、片手では5分と持っていられないくらいに重いんだ。
そんな君だって、キャベツの葉を一枚だけ剥いて持ってみたことくらいはだろう。もちろん、軽かったはずだ。君のスマートフォンをカバーしている、その可愛らしいケースよりも軽いはずだよ。
ここで考えてみてほしい。あのずしんとくる丸ごとキャベツの重さを、その軽々としたキャベツの葉一枚の重さで割った数が、そのキャベツに含まれる葉の枚数なんだ。それはすなわち、無限にも等しい数だ。味噌汁にせよ、野菜炒めにせよ、一回に使うのはせいぜい2枚で十分なのだから。
キャベツの葉は、剥いても剥いても新しい葉が出てくる。冷蔵庫に置いている間に、新しく生えているんじゃないかと思うくらい、キャベツは減らない。でもそれは本当に増えているんじゃなくて、ただただ枚数が多いということなんだ。それがキャベツというものだ。そんなキャベツの中に、僕は宇宙すら感じることができる。
そしてその日は来た
あの日君は、僕のフットサルの試合の応援に、夜遅い時間にも関わらず来てくれたね。冷蔵庫に、キャベツを残したまま。
僕は試合をしている最中にもそのことが頭から離れなかった。ああ、3日前に買ったキャベツがまだ残っている、はやく消費しなきゃって。
そう、キャベツが宇宙と違う点は、それが確実に傷んでいくということだ。だから美味しくなくなってしまう前に、宇宙的な早さで食べきらなくてはならない。もちろん僕は、試合が終わったら即行で家に帰ってキャベツ焼きそば(具はキャベツのみ、麺も半分は千切りキャベツ)を作る予定だった。
でも君は違った考えを持っていたようだね。もう夜遅いし、疲れたし、せっかく遠出しているから外で何か食べて帰りたいと。そこで喧嘩になって、君は一向に譲ろうとしない僕に例の質問をしたわけだ。
「あたしとキャベツ、どっちが大事なの?」
僕は予想外の質問に「は?え、は?」としか答えられなくて、結局その日は、うまくもないラーメンを食べて帰ったっけ。
比べることはできない
そのちょっと後、君は僕たちの住んでいた家から出て行ったね。宙ぶらりんの質問と、結局傷んでしまったキャベツを残したまま。
もちろん、あのときの喧嘩が別れの直接の原因ではないけど、一連のもめごとのきっかけにはなってしまったね。一緒に暮らしていてとても楽しい時間も過ごしていた時期もあっただけに、とても悲しい出来事だった。
僕はそれから考え続けている。どうしてあのとき、「君の方が大事だ」と即答できなかったのか。そうしなかったことで、すいぶん君を傷つけてしまったし、結果として僕も、そしてキャベツも、傷つかずにはいられなかった。
でもね、科学者だからなんだろう、やっぱりあることが頭から離れなかったのは大きいと思う。それはね、
単位が違うものは、比較できません!!!
by 人間関係力皆無な学者見習い