TheLosersのブログ

大丈夫、あなたの方がましです。

外国人研究者にめっちゃ怒られた

 

どーも学者見習いです。最近怖かったこと書きます。 

科学者の仕事は、論文を書き、それが引用されること

科学者が実際何をする仕事なのかはおいおい詳しく書いていこうと思いますが、要は「良い論文を、たくさん出す」と評価され、それが就職やら昇進につながります。何をもって良い論文かっていうのは色々議論があるところですが、引用数というのが最もよく使われる指標です。そもそも科学というのは過去の研究をベースに積み重ねていくものです。ある研究成果を論文にするときは、関連する分野で今までどういう発見があって、その結果として今何がわかっていないから、この調査なり実験なりをしました、という書き方をします。そうやって過去の研究を参照するときには、過去の論文を引用することになるので、逆にたくさんの論文から引用される論文というのは、それだけ後世に影響を与えた、意味のある論文だったという言えるわけです。

ただ、出した論文がどれくらい影響を与えるかなんて、分野にもよるでしょうけど、10年くらい経たないとわからないものです。10年経たないと仕事の質が評価できないというのでは、たとえ厳密にはそうであっても、現実問題困ります。そこで代わりに、掲載された雑誌のレベルが、評価の基準になります。この「雑誌のレベル」というのも引用数で測られることが多く、その雑誌に掲載された論文が1年間で平均何回引用されるか、という指標、いわゆる「インパクトファクター」が目安にされます。で、雑誌のレベルが高いほど基本的には審査や要求水準が厳しく、掲載される論文のレベルも高い傾向にあります。そんなわけで、科学者はインパクトファクターが高い雑誌に論文を掲載することを目指しながら、日々頑張っています。

 

外人に書いた論文を送ったら、めっちゃ怒られた

それで僕はというと、最近研究についてはぼちぼち順調でして、一か月前くらいに、僕の分野では結構有名でインパクトファクターもまあまあ高いイギリスのある雑誌に、論文を通すことができました。ここ4年くらいずっと取り組んできた自信作でして、化学分析と数値シミュレーションを組み合わせて、動物の移動経路を推定する新方法を開発したぜ!っていう内容なんですね。編集者や審査員もとても斬新で面白いと言ってくれましたし、日本の新聞もちょっと取り上げてくれました。2本目の論文にしては、相当イケてるほうだと思います。

 

で、浮かれまくった僕は、国際学会とかで知り合った、近い分野の外人研究者全員に論文を送りつけました。こういうのやっておくと、「そういえば、あんなことやってるJapaneseいたな」と、あとあと共同研究のメンバーに入れてもらえたり、雇ってもらえる可能性が出てくるので、営業活動としては大事です。基本的には皆さん、「これはGreat Workだ!!よくやった!!」と言ってくださったのですが、一人だけ、めっちゃ怒ったメールを昨日くれた方がいました。その文面がこちら!

 

Thanks for sharing this - however I'm slightly dismayed and disappointed, that given the similarity in what you have done, that you cite neither of our papers (links below) also using the method you used. I hope this was a genuine oversight, however both of these should have been picked up in any literature search you did for your project.

 

まず雑に意訳すると、

 

「論文をどうも。だが新しい手法を開発した言っているが、うちらも先に似たようなことやってきた。それがなぜ引用されていないんだ??どういう探し方したってうちらの論文に行き当たるだろーが」

ってとこでしょうか。

 

いや~読むのが怖かったってなんの。この人、結構仲良く話してくれた人で、かつ学会の中でも結構有名な人だったので、余計びびりました。 "slightly dimayed and disappointed" ってくだりにだいぶ迫力を感じますよね。slightly でちょっと丁寧にして自身の礼儀正しさを強調しつつ、dismayed とdisappointed の類語反復で怒りを強調するという、イギリス人一流の高等皮肉技術で憤怒を表明してきています。次の分も結構えぐりに来ていて、" I hope this was a genuine oversight" 「これが純粋なる見過ごしであることを願っている」として、僕に過失があるという前提で、それが単純なミスなのか意図的なものなのかという問題を提起し、"however both of these should have been picked up in any literature search you did for your project." 「しかしながら、どうやっても見過ごせるはずがない。」として、単なるミスではないんじゃないかという強い疑念を示しているわけです。やーこわい。ロジカルにかっこいいし、こういう英語書けるようになりたいけどとにかくこわい。学会から締め出されたらどうしよう。論文通らなくなっちゃうよ。。。。ヘタレな僕は、昨日はろくにご飯も食べられませんでした。

 

そんなに悪いことはしていなかった

実際ですね、この人の論文はうっすら読んだような気はしてましたが、自分のを書いている最中にはその存在を完璧に忘れていました。やってしまったか、、、というわけでもっかいその人の論文をおそるおそる確認してたみたところ、、、

 

微妙だな。。。

 

いやー似たことやってるって言ってますけど、それは膝から下だけの話であって、そっから上は体型も服装も全然違う。研究目的も違えば前提とされるデータの質も量も違うし、解析のエレガントさに至っては比べ物にならないような気がする。アリとクワガタは確かに同じ黒い虫だけど、似ているとはあんまり思わんでしょーが、みたいな。僕から見れば、そんな感じでしたし、ボスにも相談したところ、「全然レベル違うし、実際研究の参考にしていないなら引用する必要はないんだ。」という感じでした。 まあ引用しても良かったけど、引用しなくちゃいけないほどではなかったなというところです。ここまで来てようやく、すごい悪いことをしてしまったのかなという不安はなくなり、仲良くしておきたい相手ではあるので返信メールをどう書くかで悩んでいることを除けば、だいぶ心は落ち着いてきました。

 

ただやっぱり、引用しなかっただけでこんなに怒るんだな~というのは新鮮な驚きでした。引用数が1回減ったのを起こっているのか、先にやっていたことを無視され、僕が新しいことをした、と書いたことを怒っているのか。それともアイディアを無断でパクったとでも言いたいのでしょうか。僕から見れば、さっきにやっていたことを無視したというより、関係がないし参考にもしてないから引用しなかったという感じなんですがね。。逆の立場だったら、こんな風には僕は怒らないような気がしますが、これがベテラン科学者になると変わってくるのか、それともそもそもの文化の違いなのか?

 

教訓

 

今回僕が垣間見たものは、科学者の世界も事実やデータだけで作られるロジカルな世界ではなく、ただの人間社会だという事実なんだと思います。やっぱり科学者も自分の専門分野を自分の縄張りだと思っていて、そこにいきなり入ってこられて拒否反応を示したというのが、今回の僕が相手を怒りを買った理由の1つなんじゃないかと想像しています。社会不適合だから学者をやっているのに、怒られないようにするために引用する文献を探さなきゃいけないなんて、結構面倒な世界ですね。あとはイギリス人の怒り表現の鋭さにも脱帽しました。最初見たときはほんとうに息が止まるかと思いましたから。良いものを見せてもらいましたので、いつかこういう英語をスラスラ書けるようになりたいです。今後は次のことを気を付けて頑張ろうと思います。

 

論文の中で引用しなかった人には、論文を送らない。

 

 

学者見習い